前回の記事『国際送電網と北東アジア電力市場』の中で、国際送電網と東アジア国際電力市場の状況を紹介している。アジアの国際送電網の構築はまだ始まったばかりだが、欧州は国際送電において長い歴史と豊富な経験を持っている。本記事では欧州の国際送電を紹介し、欧州の経験からアジアの国際送電網への啓発になるかどうか検討してみよう。
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長い歴史を持っている欧州国際送電網
驚くべきことに、欧州の国際送電網の歴史は100年以上も前に始まっている。1915年に北欧のデンマークとスウェーデンの間に国際連系線が建設されたのを皮切りに、1920年にはフランス・スイス・イタリアを結ぶ国際連系線が稼働した。さらに1950~60年代になるとドイツからポルトガルまで、そして1980年代には海底ケーブルを通じてイギリスまで国際送電網が広がっていく。
国際送電網の拡大に伴って送電量も増え続け、2017年には欧州全体で約4500億kWhに達した。特に1990年代に入ってイギリスをはじめ各国で発送電分離(発電・小売事業と送電事業の分離・独立)が進み、国境を越えた広域の電力取引が活発になった。
加えて風力発電を中心に自然エネルギーの電力が欧州全域で増加したことも、国際送電量を拡大させた。早くから風力発電の導入に取り組んできたデンマークでは、天候による発電出力の変動対策として国際送電網を積極的に活用している。既に他国に向けた電力の輸出率は30%を超え、輸入率は40%近くまで上昇した。欧州全体で見ても輸出入の比率は10%以上に達している。
実際に各国間の電力の潮流を見れば、国境を越えて電力の輸出入が活発に行われている状況が分かる。欧州の国際送電網は地域別に4つの大きなネットワーク(欧州大陸系統、北欧系統、イギリス系統、バルト系統)で構成する。さらに各地域のネットワークを直流送電方式で非同期に接続して、遠く離れた国の間でも広域の電力取引を可能にしている。
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高圧直流方式で送電コストが低下
前回の記事で欧州の国際送電網は圧直流による送電することを述べている。高圧直流(HVDC)方式による長距離送電技術である。通常の送電網では電圧を変換しやすい交流で電力を送るが、直流と比べて送電時の損失が大きくなる。この点で高圧のまま直流で電力を送るHVDCは損失が小さく、国際送電網の基幹部分に採用することで送電効率を高めることができる。
それに加えて海底ケーブルの技術が進んできた。長距離の国際送電線をHVDCで海底に敷設する大規模なプロジェクトが各地域に広がり始めている。その中で代表的な例を挙げるとすれば、ノルウェーとオランダ間を結んで2008年に開通した「NorNed(ノルネッド)」だろう。全長が583kmに及び、現在でも世界最長の海底送電ケーブルである。
NorNedは±450kVの高圧直流方式で700MWの電力を送電できる。建設に掛かった総コストは6億ユーロ、現在の為替レートで計算すると約750億円である。
日本の近海と海底の状況などが違うものの、技術革新によるコスト低下も進んでいる。そう考えると、欧州とさほど大きく変わらない単価で、日本と近隣諸国の間をHVDC方式の海底送電ケーブルで接続できる可能性は大きい。
欧州では国際送電網の建設コストが下がるのと同時に、太陽光発電や風力発電を中心に自然エネルギーの電力が各国で増加して、電力を輸出入するメリットが大きくなった。とりわけ海に面した国々では、HVDC方式による国際連系を通じてさまざまな便益が期待できる。
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北欧からイギリスへ自然エネルギーの電力
日本と同じ島国のイギリスでは火力発電の比率が高く、しかも電力の卸売価格が近隣諸国と比べて高いという問題を抱えている。こうした課題を国際連系線で大幅に改善され解決されてきた。
2011年にイギリスとオランダの間で運転を開始した国際連系線の「BritNed(ブリットネッド)」の事業規模を見ると、オランダからイギリスへ融通する電力量が年々増加して、2015年には年間で80億kWhにのぼった。さらにイギリスとオランダ間の電力価格差が拡大したことにより、BritNedの送電事業の売上高は2億ユーロ近くまで達した。建設に掛かった総事業費の6億ユーロ(約797億円相当)を数年のうちに回収できる見通しだ。
これに加えてイギリスには北欧から新たに水力や風力の電力が国際連系線で入ってくる。欧州各国の卸電力の取引価格を比較すると、自然エネルギーの比率が高い北欧4カ国を含む卸電力取引所「Nord Pool(ノルドプール)」の価格が最も低い。2015年にはイギリスの半値以下の水準になっている。2つの地域間を国際連系線で接続すれば、イギリスの卸電力の価格低下と自然エネルギーの利用拡大が期待できる。
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アイルランドの国際送電は北海道に経験を提供するか
イギリスからは西側のアイルランドとの間にも国際連系線がある。2013年に運転を開始した「East West Interconnector」である。アイルランドは風況に恵まれていて、風力発電の開発が活発に進んでいる。2017年には、風力発電による供給量が国全体の電力需要の8割を超える水準まで跳ね上がった。それでも国際連系線でイギリスに電力を送り、需給バランスの調整に成功している。
アイルランドは面積や電力需要の規模が日本の北海道に近い。北海道でも太陽光発電や風力発電を中心に自然エネルギーの電力が拡大しているものの、需給バランスを維持する目的で導入量を抑制する動きが見られる。東北と結ぶ連系線の増強計画が進んでいるが、他国とも国際連系線でつながれば、自然エネルギーの導入量を大幅に増やすことが可能になるだろう。
国際連系線は原子力発電の依存度が高い国にもメリットを与える。イギリスに向けてフランスからも国際連系線で電力が送られている。原子力発電の比率が高いフランスでは卸電力市場のスポット価格が低い。ただし原子力発電は1基当たりの供給力が大きいために、1基でも運転を停止すると価格が上昇してしまう。
最近の例を挙げると、フランス国内で2016年11月8日に原子力による供給力が減少して、スポット価格が急激に高くなる現象が発生した。そこで近隣諸国から安価な電力を国際連系線で輸入して、コストの上昇を抑えることができた。フランスでは電力の安定供給に欠かせない予備力の一部も国外から調達している。
結論
本記事では欧州国際送電の歴史と現状、及び国際送電網による取引を通じて国全体の電力コストを抑制していることを紹介している。欧州の国際送電網や欧州諸国の国際送電も、日本にとって非常に参考になることがある。しかし、日本が欧州の経験を活かそうと思ったら制度面の改革が欠かせないと思う。次回はアジア諸国との国際送電を実現するために、日本に必要な改革について紹介したいと思う。



